健康保険の入れ歯

山形屋歯科坂上医院(鹿児島市・山形屋デパート1号館)

『国民皆保険制度』が始まってから、すでに半世紀以上が経ちました。

その間、保険料を支える世代の高齢化が進み、若い世代でも保険料を負担できない人が増えています。 一方で医療費は増え続け、保険財源は厳しい状況にあります。

健康保険では満足できる入れ歯は作れないのか?

この質問はとても答えにくいものです。 医学的に「食事に支障がない」と判断される治療の多くは健康保険の適用になっています。 急な歯痛、虫歯治療、そして入れ歯もその一つです。

健康保険は、病気になったときに日本国民が等しく同じレベルの治療を受けられるようにする制度です。

保険の入れ歯

つまり、健康保険証を提示した時点で、ある意味「同じレベルの治療を受ける」ことに同意したことになります。

では、その「同じレベルの治療」で作られた入れ歯を、皆さんが 満足できる入れ歯 と感じられるでしょうか。

(おそらく、このページを読んでおられるということは、保険の入れ歯に満足されていないのだと思います…)

健康保険の財源は、皆さんが支払う保険料と公的資金で成り立っています。 そのため、制度を維持するには 極限までコストを抑え、歯科医の技術料も最小限に抑えた「規格診療」 を行わざるを得ません。

国会議事堂

では、コストを極限まで抑え、技術料を最小限にした「規格診療」で作られる入れ歯とは、どのようなものなのでしょうか。

例として、パソコンを考えてみましょう。 4万円台のものから30万円を超えるものまであります。

高価格帯のパソコンは高速CPU、大容量メモリ、高解像度ディスプレイなどが搭載され、快適に動作します。 一方、4万円台のパソコンは必要最低限の構成で、動作は遅く、ストレスが溜まりやすいものです。

パソコンと入れ歯を直接比較するのは適切ではありませんが、 価格の違いが性能に影響するのは、どの分野でも同じ です。

しかし、私たちは世界に誇る日本の健康保険制度を守り、次の世代へ引き継がなければなりません。 そのためには、歯科では材料や技術に制約を設け、コストを下げる必要があります。

とはいえ、歯が抜けた後の状態が良好な方は、健康保険の入れ歯でも十分に噛める場合があります。

健康保険の入れ歯は「規格診療」

健康保険の入れ歯は、できるだけコストを抑え、歯科医師の技術料も最小限に評価された 規格診療 です。

私は、歯は人体の臓器の一部だと考えています。 入れ歯は失われた臓器の代わりとなる人工臓器です。

義眼や義足のように、人工臓器には高度な技術が必要ですが、それでも本来の機能を完全に再現することはできません。

良い入れ歯

皆さんが入れ歯に求める条件は、次のようなものではないでしょうか。

では、もし皆さんが歯科医師なら、 これらの条件を満たす入れ歯を作るために いくらが適切な価格だと思いますか?

歯が抜けた後の歯茎は人によって大きく異なります。 骨が薄い場所、出っ張った場所などがあり、型取りは非常に精密さが求められます。

噛み合わせも三次元的に正確に設定し、美しい歯並びを作り、噛んだときに痛くないように調整し、長持ちする入れ歯に仕上げる必要があります。

健康保険の現実

健康保険の入れ歯

総入れ歯を1つ作った場合、健康保険から歯科医院に支払われる診療報酬は約4〜5万円。 そのうち6〜7割は歯科技工士の取り分です。

受付、歯科衛生士、器具の滅菌、材料費、設備費などを差し引くと、 歯科医院が利益を出すのは非常に難しいのが現実です。

そのため、義歯は「不採算部門」と呼ばれることもあります。 それでも鹿児島の真面目な歯科医師たちは、できる限り良い義歯を作ろうと努力しています。

しかし、保険の入れ歯は調整が必要で、最低でも4回程度の来院が必要です。

痛くて噛めない入れ歯

現実には、 「作ったけれど痛くて噛めない → 使わない → 別の歯科医院でまた作る」 を繰り返し、 “入れ歯のコレクション” を持つ方も少なくありません。

では、どうすれば入れ歯のコレクションを卒業できるのか?

一例として、 健康保険の入れ歯金属床義歯 の使い勝手を比較してみましょう。

レジン床義歯と金属床義歯の違い

レジン床義歯
(保険適用)
金属床義歯
(自費治療)
写真 レジン床義歯 金属床義歯
形態 ・強度確保のため厚みが必要(約3mm)
・温度が伝わりにくい
・違和感が大きい
・汚れ・臭いがつきやすい
・金属使用で薄く作れるため違和感が少ない
・装着感が良い
・臭いが少なく衛生的
審美性 部分入れ歯では金属バネが目立つ バネを目立たなくする工夫が可能
精度 ・プラスチックは変形しやすい
・破折しやすい
・修理は比較的容易
・精度・吸着性が良好
・丈夫で変形が少ない
・良質人工歯で効率よく咀嚼できる
発音 舌の動きが邪魔され、慣れるまで時間がかかる 薄く作れるため舌の動きを妨げにくく発音しやすい
味覚 プラスチックで覆われ温度が伝わりにくい 温度が伝わりやすく味を感じやすい

自費義歯の欠点

しかし、比較表を見ていただくと分かるように、 多くの方が不満に感じている点は 金属床義歯で大きく改善 されます。

実際、当院でも金属床義歯は作製頻度が高く、 「入れ歯を入れていることを忘れるほど自然」 とおっしゃる方も多い、非常に使いやすい義歯です。

もしこれが健康保険で作れれば、 “入れ歯のコレクション” を作る必要はなくなるでしょう。

しかし、財政上の理由で実現できないのが現実です。

その結果として、 治療の進め方 で述べたような問題が起こります。

健康保険の入れ歯では満足できない理由

健康保険で入れ歯を作ったが、調整しても満足できない。

では、6ヶ月後に別の歯科医院で保険の入れ歯を作り直せば、 満足できる入れ歯になるのでしょうか?

健康保険の義歯は、どこで作っても 同じ「規格診療」 で作られます。

NHKスペシャル「入れ歯のハナシ」

「噛めない・話せない・笑えない」という内容が大きな反響を呼びました。

これは歯科医師だけの問題でしょうか? 患者さんが悪いのでしょうか? それとも……?

国の財政は今後さらに悪化し、医療費削減の名のもとに 診療報酬はますます抑制されていくでしょう。

その時、入れ歯が必要な皆さんは、どのような選択をされるのでしょうか。

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